執筆:長野国助法律事務所 代表弁護士 【横澤康平】(東京都港区赤坂)
この記事の要点
- 使途不明金とは、亡くなった親の預金から引き出され、使い道が説明されていないお金のことです。
- 相続人は、他の相続人の同意がなくても単独で金融機関から取引履歴を取り寄せられます。
- 生前の引き出しは不当利得返還請求・損害賠償請求で、死亡後の引き出しは民法906条の2により遺産分割の中で取り戻せることがあります。
- 不当利得返還請求権は引き出しから最長10年で時効にかかるため、早めに弁護士へ相談することが重要です。
「父が亡くなって通帳を確認したら、亡くなる数年前から毎月まとまった金額が引き出されていた」「母の介護をしていた兄が、預金を管理していたはずなのに残高がほとんどない」――相続のご相談で、非常に多いのがこのようなケースです。
親の預金が生前または死後に引き出され、何に使われたのか分からないお金を、一般に「使途不明金」と呼びます。使途不明金は、相続人同士の感情的な対立に直結しやすく、遺産分割がまとまらない大きな原因になります。
このコラムでは、相続問題を数多く扱ってきた弁護士の立場から、使途不明金の調べ方、取り戻すための法的手段、そして早めに動くべき理由を分かりやすく解説します。
使途不明金(預金の使い込み)とは?よくある3つのパターン
使途不明金とは、被相続人(亡くなった方)の預金口座から生前または死亡後に引き出され、その使い道が説明されていないお金をいいます。 特定の相続人が自分のために使っていた場合は、一般に「預金の使い込み」と呼ばれます。
使途不明金は、引き出された時期によって問題の整理の仕方が大きく変わります。
パターン | 典型例 | 主な解決の場 |
|---|---|---|
① 生前の引き出し | 認知症の親のキャッシュカードで、同居の子が毎月50万円ずつ引き出していた | 遺産分割の外での民事訴訟(合意があれば遺産分割の中でも扱えます) |
② 死亡直前の引き出し | 口座が凍結される前に、まとまった金額が引き出されていた | ①または③と同様(死亡の前か後かで区別) |
③ 死亡後の引き出し | 過亡後、他の相続人に知らせずに預金を引き出した | 遺産分割(民法906条の2の活用) |
いずれの場合も、「誰が、いつ、いくら引き出し、何に使ったのか」を客観的な資料で明らかにすることが出発点です。なお、親本人の生活費や医療・介護費に使われたと説明できるお金は、「使い込み」には当たりません。
親の預金の使い込みを調べる方法
使途不明金を取り戻すためには、まず証拠を集めることが不可欠です。主な調査方法は次のとおりです。
1. 金融機関から取引履歴を取り寄せる
相続人であれば、他の相続人の同意がなくても、単独で被相続人の預金口座の取引履歴を請求できます(最高裁平成21年1月22日判決)。戶籍謄本などで相続人であることを証明して申請します。
金融機関の記録の保存期間はおおむね10年程度です。時間がたつほど古い記録が取れなくなるため、早めの請求が大切です。
2. 引き出しの状況を詳しく確認する
取引履歴からは、次のような点を読み取ります。
- 窓口での払戻しか、ATMでの引き出しか
- 引き出しの日時と場所(親が入院中や施設入所中ではなかったか)
- 他の口座(特に特定の相続人名義の口座)への振込みがないか
窓口での払戻しであれば、払戻請求書の写しを取り寄せて、筆跡を確認できる場合もあります。
3. 親の健康状態を示す資料を集める
引き出し当時、親が自分で預金を管理できる状態だったかどうかが重要な争点になります。
- 医療機関のカルテ・診断書(認知症の程度など)
- 要介護認定の記録・主治医意見書
- 介護施設やケアマネージャーの介護記録
4. 弁護士や裁判所を通じた調査
ご自身で取り寄せられない資料でも、弁護士が行う「弁護士会照会」や、裁判手続の中での「調査嘱託」「文書送付嘱託」によって入手できる場合があります。
使い込まれた預金を取り戻す法的手段
生前に引き出された場合:不当利得返還請求・損害賠償請求
親に無断で預金を引き出して自分のために使った場合、親は引き出した人に対して「返してほしい」と請求する権利(不当利得返還請求権、不法行為に基づく損害賠償請求権)を持ちます。
親が亡くなると、この権利は各相続人が法定相続分に応じて引き継ぎます。例えば、兄弟2人が相続人で兄が1,000万円を使い込んでいた場合、弟は兄に対して500万円の返還を求めることができます。
この請求は、本来は家庭裁判所の遺産分割調停ではなく、地方裁判所などでの民事訴訟で解決する問題です。ただし、相続人全員が合意すれば、使途不明金を遺産分割の中でまとめて清算することも可能です。
死亡後に引き出された場合:民法906条の2
2019年7月1日に施行された改正民法により、遺産分割前に一部の相続人が勝手に引き出した預金も、その人以外の相続人全員が同意すれば、遺産として残っているものとみなして遺産分割を行えるようになりました。引き出した本人が反対しても、この扱いは妨げられません。
その結果、引き出した相続人は「すでにその分を受け取った」ものとして扱われ、公平な分割が実現しやすくなりました。
「贈与」と認められた場合:特別受益
親が自分の意思で子にお金を渡していた場合は、使い込みではなく「生前贈与」になります。この場合も、生計の資本などのための贈与であれば「特別受益」として、遺産分割でその分を考慮するよう求められる可能性があります。
なお、親子などの近親者間での窃盗や横領は、刑法の「親族相盗例」により刑が免除されるため、刑事事件としての責任追及は難しいのが実情です。だからこそ、民事上の手段でしっかり取り戻すことが重要になります。
「親のために使った」と反論されたら?よくある反論と争点
使途不明金を指摘すると、引き出した相続人からは次のような反論が出るのが通常です。それぞれについて、証拠に基づいて対応していくことになります。
よくある反論 | 主な争点 |
|---|---|
「親の生活費や医療費・介護費に使った」 | 親の実際の生活状況からみて、その金額が必要だったか。施設費や医療費の領収書があるか |
「親からもらった(贈与だった)」 | 親にその意思と判断能力があったか。贈与契約書や贈与税の申告があるか |
「親に頼まれて引き出し、現金を親に渡した」 | 親がその現金を使える状態だったか。入院中や施設入所中の引き出しではないか |
「自分は引き出していない」 | キャッシュカードや通帳を誰が管理していたか。ATMの場所がその人の生活圏と一致するか |
親から財産管理を任されていた相続人には、本来、管理の状況を説明すべき立場にあります。引き出しの事実を資料で示したうえで、具体的な使途の説明と裏付けを求めていくことが、交渉を有利に進めるポイントです。
使途不明金の返還請求に時効はある?「いつか話し合う」では手遅れに
使途不明金を取り戻す権利には、時効があります。
権利 | 時効期間 |
|---|---|
不当利得返還請求権 | 権利を行使できることを知った時から5年、または行使できる時から10年(2020年4月1日以降に発生したもの) |
不法行為に基づく損害賠償請求権 | 損害と加害者を知った時から3年、または不法行為の時から20年 |
特に注意が必要なのは、不当利得返還請求権の「10年」が引き出しの時点から進むことです。親の生前から長期間にわたって引き出しが続いていた場合、古いものから順に時効にかかっていきます。
また、前述のとおり金融機関の記録の保存期間にも限りがあります。四十九日や一周忌を待ってから――と考えているうちに、取り戻せる金額が減ってしまうおそれがあります。疑問を感じた段階での早めのご相談をお勧めします。
使途不明金の問題を弁護士に相談・依頼するメリット
使途不明金の問題は、税理士や司法書士では代理人として交渉や訴訟を行うことができない、弁護士の専門領域です。弁護士に依頼すると、次のようなメリットがあります。
- 証拠集めを効率よく進められる:必要な資料を見極め、弁護士会照会なども活用して取り寄せます。
- 取引履歴を法的な視点で分析できる:何年分もの履歴から、追及すべき引き出しを特定し、一覧表に整理します。
- 感情的な対立を避けて交渉できる:弁護士が窓口となり、兄弟姉妹と直接やり取りする負担から解放されます。
- 遺産分割と一体で解決できる:使途不明金だけでなく、不動産や株式を含む遺産全体の分け方まで、交渉・調停・審判・訴訟を一貫して対応します。
長野国助法律事務所へのご相談
東京都港区赤坂の長野国助法律事務所は、使途不明金(預金の使い込み)をめぐる紛争をはじめ、不動産や非上場株式が含まれる遺産分割、遺留分侵害額請求など、相続に関する幅広い問題に取り組んでいる法律事務所です。交渉から遺産分割調停・審判、民事訴訟まで、弁護士が一貫して対応します。
「通帳を見て不自然な引き出しがある」「兄弟に説明を求めても答えてくれない」といった段階でも、まずはお気軽にご相談ください。手元の通帳や資料を拝見し、取り戻せる可能性と今後の進め方を具体的にご説明します。
よくあるご質問
Q. 他の相続人に同意なく、親の預金の取引履歴を取り寄せられますか?
A. はい。相続人であれば単独で請求でき、他の相続人の同意は不要です。
Q. 何年前までの引き出しを問題にできますか?
A. 金融機関の記録保存期間の関係から、おおむね過去10年程度が目安です。
Q. 使途不明金があると、遺産分割は進められませんか?
A. 相続人全員が合意すれば、遺産分割の中で一緒に解決できます。合意できない場合は、遺産分割とは別に民事訴訟で請求します。
Q. 親が存命中ですが、兄弟の使い込みを防ぐ方法はありますか?
A. 成年後見制度や任意後見契約、家族信託を利用して、財産管理を透明化する方法があります。早い段階での対策が将来の紛争を防ぎます。
Q. 使い込んだ兄弟が話し合いに応じない場合はどうすればよいですか?
A. 弁護士が代理人として内容証明郵便で返還を請求し、交渉を行います。それでも応じない場合は、地方裁判所に不当利得返還請求訴訟を提起します。
Q. 親が認知症だった場合、「親からもらった」という説明は認められますか?
A. 贈与が有効とされるには、親に贈与の意味を理解する判断能力が必要です。引き出し当時の診断書や介護記録から判断能力がなかったと認められれば、その説明は通りにくくなります。
まとめ
- 使途不明金は、まず金融機関の取引履歴と親の健康状態を示す資料で事実を確認します。
- 生前の引き出しは不当利得返還請求などで、死亡後の引き出しは民法906条の2を使って遺産分割の中で、取り戻しを図ります。
- 時効と記録の保存期間があるため、疑問を感じたら早めに弁護士へ相談することが、取り戻せる金額を守る最大のポイントです。
親の預金の使途に疑問をお持ちの方は、東京都港区赤坂の長野国助法律事務所までお問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。

