コラム

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相続人が会社から株式売渡請求を受けた場合の対応

 

会社から相続人に対して株式売渡請求がなされた場合、売渡請求が適法であれば、相続人の同意がなくても株式を売渡すことになります。もっとも、売買価格については協議ができ、協議が調わない場合には、請求日から20日以内に裁判所へ価格決定を申し立てることができます。

20日以内に協議が調わず、かつ会社または相続人のいずれからも裁判所への申立てがなければ、売渡請求は効力を失います。したがって、価格に異議がある相続人は、会社との協議だけでなく、20日という申立期間を厳格に管理する必要があります。

 

1 売渡請求の適法性

(1) 定款の定めと対象株式

会社法174条の制度は、相続その他の一般承継により取得された譲渡制限株式について、会社が当該株式を会社に売り渡すよう請求できる旨を定款で定めている場合に限り利用できます。この制度により、会社は相続人等の合意がなくても株式を取得できます。

 

(2) 株主総会決議の内容と議決権

会社は、売渡請求をする都度、株主総会の決議により、請求対象株式の数とその株式を有する者の氏名または名称を定めなければなりません。対象者は、その株主総会で議決権を行使できません。対象者は定足数の算定基礎からも除外されます。

 

(3) 1年の請求期限と撤回

会社は、相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過すると、会社法176条1項の売渡請求をすることができません。期間の起算点は、相続等が発生した日そのものではなく、会社が相続等を知った日とされています。また、会社は売渡請求をいつでも撤回できます。

 

2 相続人が複数いる場合・準共有の場合

(1) 一部の相続人だけを対象とする請求

相続された譲渡制限株式が準共有状態にある場合でも、会社が準共有者全員ではなく、その一部の者だけに売渡請求をすることは、会社法上禁止されないと判断されています。東京高等裁判所は、相続人の一部だけを排除できれば制度目的を達成できる場合があり、常に相続人全員に請求しなければならない必然性はないと判示しました(東京高判平成24年11月28日共和証券株主総会決議取消請求事件、東京地判平成24年9月10日共和証券株主総会決議取消請求事件)。

 

(2) 対応上の確認事項

相続人の一人だけが請求を受けた場合には、遺産分割や遺留分に関する紛争の有無、株式が準共有となっている経緯、請求対象が自己の準共有持分に限られているかを確認します。遺産分割協議等によって最終的に持分割合が確定した場合、その確定した持分割合の限度で請求の効力を定めることができると解されます。

 

3 売買価格についての対応

(1) 会社との協議

売買価格は、原則として会社と相続人との協議により定めます。会社から提示された価格を受け入れる義務が当然にあるという説明ではなく、協議が成立すれば、その合意額が売買価格となります。

協議に際しては、会社の資産状態その他一切の事情、株価算定書の内容、非上場株式である場合の評価方法などが問題となり得ます。裁判所が価格を定める場合も、会社法177条3項により、売渡請求時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければなりません。

 

(2) 協議が調わない場合の裁判所への申立て

会社または相続人は、売渡請求の日から20日以内に、裁判所へ売買価格決定の申立てをすることができます。裁判所への申立てに先立って協議を行うことは必須ではなく、協議を経ずに申立てをすることも可能です。

20日以内に申立てがあり、その申立てにより裁判所が価格を定めた場合は、その額が売買価格となります。反対に、20日以内に協議が成立せず、申立てもされなければ、売渡請求は効力を失います。相続人が価格に納得していない場合、会社が申立てをするかどうかを待つだけでなく、自ら申立てをする選択肢があります。

 

(3) 裁判所で考慮される事情と手続資料

裁判所は、会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を決定します。裁判所は審問期日を開き、関係者から陳述を聴いた上で、鑑定人を選任して鑑定を行うことがあります。

 

4 売渡しの効果と財源規制

売渡請求による株式取得には、財源規制があります。会社は、分配可能額、すなわち会社の純資産から資本金および法定準備金等を控除した額の範囲内でのみ株式の買取りを行うことができます。

売買契約の成立時期については、会社と相続人との協議が調った時、または裁判所による価格決定がされた時に売買契約が成立すると考えられます。また、対象株式の移転時期は、別途の合意があればその合意時期に、合意がなければ特段の事情がない限り、売買代金が支払われた時と解するのが当事者間の合理的意思解釈であるとされています。会社は株式を取得した場合、株主名簿の記載・記録をしなければなりません。

 

5 実務上の対応手順

(1) 価格に同意しない場合の期限管理

相続人が株式の売渡請求を受け、売買価格に同意しない場合は、会社に対する反論や価格協議と並行して、売渡請求日から20日以内に裁判所への価格決定申立てをするかを判断します。

(2) 相続関係・準共有関係を整理する

複数の相続人がいる場合は、遺産分割の進捗、準共有持分、遺留分減殺請求または遺留分侵害額請求の有無を整理し、会社が請求した対象と自己の持分との対応関係を確認します。一部の準共有者だけに対する請求が認められた裁判例があるため、相続人全員が対象でないことだけを理由として直ちに請求が無効になるとはいえません。

【執筆:長野国助法律事務所 弁護士 横澤康平】

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